第3回 週刊誌に未来はあるのか

ここ数年、不況業種と言われる出版界にあってとりわけ売り上げが落ち込んでいるのが総合週刊誌だ。本誌はまだまだ元気ですが、半世紀前に100万部を超えていた時代があったことを思うと、何だかやるせなくなるのもまた事実。週刊誌はなぜ売れなくなったのか。未来はどうなるのか。本誌は無謀にも、自らに匕首(あいくち)を突きつけるような連続企画を考えてみました。題して「週刊誌の未来を考える」。第3回はジャーナリスト・ライターの、井上トシユキさんお話をお聞きします。(聞き手・竹内良介)

プロフィール

井上トシユキ(いのうえ・としゆき)
1964年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、会社員を経て、98年よりジャーナリスト、ライター。 IT、ネット、投資、科学技術、芸能など幅広い分野で各種メディアへの寄稿、出演、インタビュー、書評など多数。『ぴーかんテレビ』(東海テレビ)金曜日コメンテーター

――人気沸騰中のiPad、iPhone4(ともにアップル社製品)ですが、井上さんは購入済みですか?

井上実は両方とも持っていません。いじったことは何度もあるんですけどね。

――意外ですね。

井上理由は単純で、ソフトバンクモバイルの国内独占販売というのが、どうしても納得できないからです。社長の孫正義さんは日頃、「公平な競争」「情報格差をなくし、よりよい明日をつくる」と言っているのに、なぜ独占するのか。そもそも1社独占という形態は、ビジネス的には正しくても、「one for all, all for one」という孫さんが唱えてきたインターネットの原則に反するんじゃないですかね?

――なるほど。では、端末そのものに対する評価はいかがでしょう。

井上もちろん、高く評価しています。アップル社の狙いは完全にグーグル(Google)潰しなんだと思いますね。グーグルはブラウザも検索エンジンも持っていて、検索履歴や無料で提供しているサービスを利用したユーザーの情報なども山ほど持っています。このままでは、ネット上のコマースはグーグルの一人勝ちです。それに対抗するために、これからの端末はマウスとキーボードではなく誰もが楽に使えるタッチパネルであり、加えて、アップルが公認した豊富なアプリケーションとサービスによって、最短距離で好みのコンテンツや情報、商品がいつでもどこでも入手できますよ、という方針を打ち出してきた。今後のユーザーの行動履歴や嗜好性は、アップルが蓄積するよ、と。まさにガチンコ勝負です。誰でも使えて気軽に持ち運べる電子機器を開発して、デスクトップからコンピューターを解放し、机の上にパソコンを置いて椅子に座って作業やショッピングをするという"常識"を覆そうという試みは、いかにもネットらしく、アップルっぽくもあり、高く評価されるべきだと思います。

――そこまで評価しながらも、ご自身は購入されないというのは面白いですね。

井上1社独占ではなくなった瞬間に買いますけどね(笑い)。でも、SIMロック(※)が解除されるまでは絶対に買いません。その防波堤は高いんですよ。怒りすら覚えますからね。ぼくも営業マンの経験がありますが、まあ、ビジネスは戦争ですからね、わざわざ他人の利益になることはしないということなのでしょう。ただ、日本を代表するIT/ネット財閥なんだし、さすがに違うと言われるよう、率先して「公平」「公正」「パワー・トゥ・ザ・ピープル」の範を示して欲しかったですね。ちなみに、アメリカでは、同じくiPhoneを独占販売してきたAT&TとAppleに対して、独占禁止法の観点から過去3年間の購入ユーザーによる集団訴訟を提起することを認める、との判決がカリフォルニア州で出ています。通信キャリアによる端末の縛りについて、ユーザー側の自由な選択の機会を毀損したかどうかが争われるようです。

――ところで、井上さんは週刊誌を読まれますか?

井上はい。週刊誌と夕刊紙は大好きです。

――定期的に読む雑誌は。

井上週刊文春と文藝春秋、週刊プレイボーイ、選択は必ず読んでます。送っていただいているので(笑)。

――あの...週刊朝日は?

井上あ、もちろん、気になる情報があれば買っています(笑い)。菅首相が表紙の号(2010年6月18日号)も買いましたし、直接知ってる人、たとえば上杉隆さんなんかが書いてると必ず読んでますよ。

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――ありがとうございます!井上さんの情報収集手段を教えてください。

井上圧倒的に頻度が高いのはヒトですね。諸先輩、記者、同業者、友人などですが、通話のほかにメールでのやり取りも多いです。あとは新聞を各紙読み比べをしますね。

――ちなみに、第2回目のインタビューでご登場いただいた堀江隆文さん(元ライブドア社長)は、「ツイッターで世の中の流れが分かる」と話していましたが。

井上ツイッターは登録してますが、読む専用です。ツイッターって自己申告の情報じゃないですか。そこが魅力の一つだし、それを否定はしませんが、ぼくは仕事柄、客観報道がなされている週刊誌のほうを選びます。ツイッターで世の中の流れが分かるのだろうけど、ぼくらの仕事はそこに乗っかることじゃなくて、それを客観視することだと思うからです。

――ツイッターは、いわゆる調査報道ではないと。

井上そうですね。おそらく携帯電話やインターネットで情報を入手している人のほとんどは、ストレートニュースを読んでいると思いますよ。週刊誌の魅力って、やはり調査報道にある。新聞やテレビによる表情報ではこうだが、実は裏側ではこういう事情があったんですよ、裏ではこういう見方をしてる人もいますよ、といった情報ですね。事象の裏配線という意味では、メディアとしてのネットと類似する点があると思いますが、週刊誌のような調査された情報がネット上には少ない。さらに、ネット上の情報サイトでは、客観・公正かどうかの判別がしづらい。なかには、かなり怪しい情報もありますからね。これはネット上では、もはや当たり前のことなんですが、それでも、怪しい情報を真実だととらえるリテラシー(読み書き能力)の低いユーザーが大勢いるのも現実です。ただ楽しむだけであれば真偽は二の次でいいですが、それが当たり前になってしまって本当にいいの?と思いますね。

――読者からお叱りを受けることもありますが......。

井上ははは(笑い)。それはまあ、仕方がないですよね。いろんな考え方の人がいますし、記者も全知全能じゃないですし。ただ、週刊朝日や週刊●●という看板の信用度が、それぞれに所属する記者たちにはプレッシャーになりますからね。基本的には面白いだけではなくて、信用度の高い記事を書かなければならないという思いがある。記事を担当している本人だけではなくて、訓練を受け、経験を積んだ複数の記者による自制とチェックが、ひとつの記事に対して働くわけですよね。それがプロによる記事なんだと思います。もちろん、ネット上にも、「これは」という面白くて衝撃的な記事はありますけど、それをプロが書いたかどうか、判別できない。つまり、信用していいかどうかが分からない。どうしても気になったことは、自分で話を聞いて回りますけどね。もちろん、面白ければいい、信用度は自己判断で、という思いを持つ人もいるでしょう。でも、やっぱり、本当にそれでいいの?って思っちゃいますね。

――ネット上で情報収集を完結させてしまうことに危機感を感じるということですか?

井上はい。能動的に情報を集めると言えば聞こえはいいですが、だいたい自分にとって都合のいい情報しか集めなくなって、タコツボ化しますからね。そうなると物事の見方がより主観的になっていく。読みたい記事しか読まなくなる。アルバムではなく、iTunesで自分の好きなシングル曲しか買わないのと同じですね。好きな情報、好きな曲だけを買って何が悪いという話なんでしょうけど、でも、それを繰り返していたら民度が極端に低下しますよ。商売する側はそれでいいかもしれませんが。

――とはいえ、週刊誌は不調続きです。

井上これまで週刊誌を支えてきた中高年たちが、iPhoneとiPad、それにツイッターのブームでネットを使うことを覚えちゃいましたからね。やはり、ネット上にある短くてライトな情報のほうが読みやすいんですよ。通勤途中の電車の30分だと週刊誌に勝ち目はないでしょう。ネットの優れた面は、自分以外の読者の意見や反応をリアルタイムで、個別具体的に入手して議論できることです。ツイッターなんか、まさにそうですよね。週刊誌だと、自分が読んで理解して、他人に読ませて、それからしか議論できないですから。ネットの傾向としては、エンターテイメント性や、かつては週刊誌が担っていたはずの劣情を刺激するような内容の記事が人気が高い。何か事件が起こって「親の顔が見てみたい」とコメントがあったら、「俺も見てみたい、こんなの晒してやればいいんだ」って正直な思いをコメントとして残して、なぜだか愉快な気分になる人もいる。で、たまに、ホントに晒し上げる。それに対して「そんなもん晒してどうする、見てどうする、このバカ者が」なんてコメントが付いたりして、そこにコミュニティができる。これは楽しいですよ。紙媒体の衰退が騒がれていますが、週刊現代はSEXを大きく取り上げて部数を伸ばしましたよね。これってやっぱり劣情がウケるということなんだと思います。まだまだ紙媒体にも試行錯誤する余地があるんですよ。劣情を薄っぺらい「アダルト情報」じゃなく見せて読ませるような。「情報の電子化・短文化」という勝ち馬にみんな乗りがちですが、プロのいないマスコミなんて最悪でしょう。いまこそ、プロの仕事ができる記者たちに頑張ってほしいですね。てゆーか、ぼくも頑張って本を書きます、ぜんぜん書いてませんので(笑)。

※ SIMロックとは、携帯電話を他社の通信回線で使えないように制限をかける仕組みのこと。SIMカードには通信会社が発行する電話番号情報などが記されており、それを携帯電話に差し込むことで通話できるが、ロックがかかっていると、他社のSIMを受け付けないため通話ができない。 逆にSIMロックがかかっておらず、どこの携帯電話会社のSIMカードでも利用できる仕組みのことを「SIMロックフリー」と言う。

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