『絶妙のリズムと笑いのツボ~チャップリンの独裁者(1940年)』
笑いのセンスはもちろんだけれど、チャップリンの運動神経とリズム感にもひどく感心する。冒頭の爆笑ギャグ。チャップリン演じるユダヤ人の床屋が戦地で大砲の不発弾の周りをいったりきたり、こけつまろびつしながら駆け回る。動作に瞬発力とキレがある。
チャップリンが一人二役を務める。世界制覇を夢見るトメニア国の独裁者ヒンケル役ではひとり、地球儀の風船と戯れるシーンがある。風船をけったり、お尻で打ち上げたり。ぽんとテーブルの上に飛び乗るときの跳躍力もまた、人並み外れている。ハッとした。
どだいチャップリンならではのステッキ片手のアヒル歩きのリズムも軽妙なのだ。チャップリンが近隣国バクテリア国の独裁者、ナパロニ(ジャック・オーキー)と右手を交互に上げ下げしながら、あいさつを交わす。絶妙の間合いと呼吸。これが無性におかしい。
完ぺき主義者なのだろう。スポーツ選手の運動神経はいいのだけれど、例えば、レスリングの"連勝女"、吉田沙保里のリズム感も抜群である。連続バク転も朝飯前という。CMで音楽に合わせ、警備員たちと一緒にコミカルに踊るシーンがある。吉田は完ぺきなダンスを目指し、手先の細かい動きにまで気を遣ったそうだ。
チャップリンも吉田も生真面目ゆえのオモシロさがある。上演後、34歳の男性は言った。「ドリフターズやタモリの笑いの原点をみる思いがします。有名な演説シーンは長い気がするけれど、やはり聞き入ってしまう。内容は今でも十分、通用します」と。
ご承知の通り、この映画は現実の独裁者ヒ【ッ】トラーやムッソリーニをとことん批判し、茶化している。よくぞ世界大戦間の狂気の時代にこんな風刺映画を作ったものだ。演説で声を張り上げる。「人生は美しく、自由であり、素晴らしいものだ」。笑いの底流には平和を求める主張がしかと流れている。チャップリンは反骨の人、信念の人だったのだ。
「チャップリンの独裁者」
製作国:米、日本公開:1960年。チャップリンの最初の完全トーキー作品。最後の演説はどうしても音声で伝えなくてはならないというチャップリンの強い主張によりトーキーが採用された。製作・公開されたのは第二次大戦前夜ながら、ナチス・ドイツとヒトラーを痛烈に風刺しており、興行的には成功したものの政治的理由でアカデミー賞などの栄誉には浴していない。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=THE GREAT DICTATOR Copyright © 1940 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved.
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