2010年12月
『絶妙のリズムと笑いのツボ~チャップリンの独裁者(1940年)』
笑いのセンスはもちろんだけれど、チャップリンの運動神経とリズム感にもひどく感心する。冒頭の爆笑ギャグ。チャップリン演じるユダヤ人の床屋が戦地で大砲の不発弾の周りをいったりきたり、こけつまろびつしながら駆け回る。動作に瞬発力とキレがある。
チャップリンが一人二役を務める。世界制覇を夢見るトメニア国の独裁者ヒンケル役ではひとり、地球儀の風船と戯れるシーンがある。風船をけったり、お尻で打ち上げたり。ぽんとテーブルの上に飛び乗るときの跳躍力もまた、人並み外れている。ハッとした。
どだいチャップリンならではのステッキ片手のアヒル歩きのリズムも軽妙なのだ。チャップリンが近隣国バクテリア国の独裁者、ナパロニ(ジャック・オーキー)と右手を交互に上げ下げしながら、あいさつを交わす。絶妙の間合いと呼吸。これが無性におかしい。
完ぺき主義者なのだろう。スポーツ選手の運動神経はいいのだけれど、例えば、レスリングの"連勝女"、吉田沙保里のリズム感も抜群である。連続バク転も朝飯前という。CMで音楽に合わせ、警備員たちと一緒にコミカルに踊るシーンがある。吉田は完ぺきなダンスを目指し、手先の細かい動きにまで気を遣ったそうだ。
チャップリンも吉田も生真面目ゆえのオモシロさがある。上演後、34歳の男性は言った。「ドリフターズやタモリの笑いの原点をみる思いがします。有名な演説シーンは長い気がするけれど、やはり聞き入ってしまう。内容は今でも十分、通用します」と。
ご承知の通り、この映画は現実の独裁者ヒ【ッ】トラーやムッソリーニをとことん批判し、茶化している。よくぞ世界大戦間の狂気の時代にこんな風刺映画を作ったものだ。演説で声を張り上げる。「人生は美しく、自由であり、素晴らしいものだ」。笑いの底流には平和を求める主張がしかと流れている。チャップリンは反骨の人、信念の人だったのだ。
「チャップリンの独裁者」
製作国:米、日本公開:1960年。チャップリンの最初の完全トーキー作品。最後の演説はどうしても音声で伝えなくてはならないというチャップリンの強い主張によりトーキーが採用された。製作・公開されたのは第二次大戦前夜ながら、ナチス・ドイツとヒトラーを痛烈に風刺しており、興行的には成功したものの政治的理由でアカデミー賞などの栄誉には浴していない。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=THE GREAT DICTATOR Copyright © 1940 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved.
Renewed Copyright © 1968 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved. Photos © Roy Export S.A.S.
『人生は捨てたものじゃない~ライムライト(1953年)』
人生に必要なのは、勇気と想像力と......、そして少しの金だ。映画の中でそう、チャールズ・チャップリン演じる道化師カルヴェロが言う。とても有名なせりふである。僕は、これにプラス、「ユーモア」だと思う。何度見ても、笑い転げ、元気をもらえるのだ。
無駄なせりふがひとつもない。落ちぶれていたカルヴェロが自殺未遂のバレエ・ダンサーのテリー(クレア・ブルーム)を救い、自分も最後にひと花咲かせようとする。チャップリンの自伝的作品といわれる。映画の冒頭のフレーズ。「ライムライトの陰で老いは消えゆく」。なんだか切なくなる。
チャップリンは喜怒哀楽を顔のアップで表現する。ノミの曲芸を演じるときの目のコミカルな動き、あるいは契約を打ち切られた時の絶望の目。上演後、50歳代の男性が言う。
「チャップリンのすべての演技、すべてのせりふに酔いました。笑った。泣いた。とくに老いて卑屈になる心情がよく理解できる。どうでもいいけど、チャップリンの口元って坂上二郎さんとそっくりですね」
最後にひと花、はスポーツ界ではよく目にする。広州アジア大会で取材したテニスのクルム伊達公子もそうだ。かつて世界ランク4位までいった元女王の40歳。シングルス準決勝の敗退後、「疲れない?」と聞いたら、口元だけで笑った。
「疲れを感じないといったらロボットになってしまいます」
伊達もチャップリンも、己の人生と戦っている。死は免れない。生も免れない。だから、戦うのだ。チャップリンが言う。「幸福のための戦いは美しい」と。じつは彼は、赤狩り(レッドパージ)とも戦っていたそうだ。
久しぶりに笑いすぎて涙が出た。チャップリンとバスター・キートンの新旧喜劇王の共演シーンだ。せりふはない。バイオリンを弾くチャップリンとピアノのキートン。客席のあちこちから大きな笑い声が出続けた。ああ年の瀬に笑える幸せを感謝する。
「ライムライト」
製作国:米、日本公開:1953年。チャールズ・チャップリン製作・脚本・監督・主演・音楽作品。彼がはじめてノーメイクで出演した作品でもある。また、もうひとりの喜劇王バスター・キートンも招聘し、最初で最後の競演を果たしている。彼自身を投影したといわれる悲しき中年道化師と、若きダンサーの悲恋を描いた、チャップリン後期の傑作。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=LIMELIGHT Copyright © 1952 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved.
Renewed Copyright © 1980 Roy Export S.A.S. All Rights Reserved. Photos © Roy Export S.A.S.
『思い出の切なさ~追憶(1973年)』
人間だもの。恋をすれば、けんかもする。歳月は残酷だ。ロバート・レッドフォード演じるハベルの如く、あの頃はよかったな、とつい思い出に浸ってしまうのだ。
時折、志を頑なに貫く人がいる。バーブラ・ストライザンド扮するケイティもそうだ。反戦運動から、「赤刈り(レッドパージ)」反対、そして反核運動へ。社会運動に没頭するから、愛するハベルから「生きるスタイルが違う」と言われてしまう。切ない。有名な「♪メ~モリ~」の主題曲が感情を揺さぶる。
ストライザンドの意固地な顔つき、上流階級に対するひがみっぽい語りがうまい。いつも社会に苛立っている。大声を出す人は嫌いだ。彼女のような人がそばにいたら、たまらないだろうな、と思う。でも上からのアングル、笑ったときの顔はかわいく見える。
フィギュアスケートの浅田真央も志を貫く一途なアスリートだ。「完全な演技」の夢の実現を目指して、バンクーバー五輪後、ジャンプを磨くため、長久保裕コーチに付いたと思ったら、3カ月で名伯楽の佐藤信夫コーチに鞍替えしてしまった。
ふたりは祖父と孫娘ほどの年齢差がある。果たして佐藤氏の指導がハタチの浅田にマッチするのかどうか。白髪のコーチの気苦労を想像する。ロシア人女性のタチアナ・タラソワとの頃が一番幸せだったかもしれない。
映画の観客は年配の紳士が多かった。あえて20歳代の男性に聞く。
「自分をだぶらせることはできないけれど、何度も泣いてしまった。ふたりは分かり合えない。それにしてもロバート・レッドフォードってカッコいい」
美男俳優レッドフォードの魅力はブルーの瞳だけと思っていた。が、再会のシーン。バーのカウンターで居眠りしている時の顔立ちにはマイッタ。『明日に向って撃て!』でスターに躍り出た「旬」の頃の作品。しかも「ケイティを愛しているけど、やっぱり、ついていけない」という男の哀感がオーラに潤いを加えている。
「追憶」
制作国:米、日本公開:1974年。脚本家のアーサー・ロレンツが実体験した学生運動をもとに脚本を書き起こしたラブストーリーの傑作。第二次世界大戦前夜からの20年間に及ぶ男女のロマンスが描かれる。1948年以降西側諸国で行われた「赤狩り(レッドパージ)」を取り扱った初のメジャー作品でもある。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=© 1973 RASTAR PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
『価値観と視線の錯綜の妙~刑事ジョン・ブック/目撃者(1985年)』
世の価値観は多様である。希少な信徒一派アーミッシュの平穏な生活と、現代のアメリカの暴力的な生活。その対比の中で、ハリソン・フォード扮する刑事ジョン・ブックが殺人犯たちと対決する。
穏やかな心は目でわかる。怒りも目に表れる。アーミッシュをからかう若造をにらみつける時のフォードの目はコワい。冒頭、トイレで殺人事件を目撃した時のアーミッシュの少年サミュエル(ルーカス・ハース)の瞳からはおびえがよく伝わってきた。
アーミッシュの村人総出で納屋を建てるシーンがある。フォードと、ケリー・マクギリス演じる未亡人レイチェルの交錯する視線。ふたりの関係をいぶかしがる村の若者のジェラシー、あるいは疑念に満ちた視線。目のアップが重なり、幾多の視線が錯綜する。言葉はない。つい心中を想像してしまう。
広州アジア大会を取材すれば、アジアの価値観の多様性に驚かされる。選手の目もいろいろあった。サッカー女子の「なでしこジャパン」は決勝で北朝鮮と対戦した。グラウンドレベルに近い席から観戦する。右のCKからMF宮間あやがゴール前に蹴り込み、DF岩清水梓が頭でねじ込んだ。金メダルをもたらす決勝点。確かに宮間と岩清水の目はしかと交錯していた。
チームスポーツの目の動きは興味深い。チームとしての自信、チームワークの強度がよくわかる。アーミッシュを演じた役者たちの穏やかな目の光はどうやって出したのだろう。これも技術か、悪役たちの目はどうしても凶暴に見えるのだ。
鑑賞した50歳代の女性は言った。これが3度目。
「アーミッシュの静かな世界と現代社会のギャップがオモシロい。その違う社会の男女が互いに魅かれ合って、やっぱり別れてしまう。なぜか胸が打たれるのです」
視線でいえば、フォードが、板壁のすき間からシャワーを浴びるマクギリスの裸をのぞくところが好きだ。その目のど助平なこと。同じ男として、ついうれしくなる。
「刑事ジョン・ブック/目撃者」
製作国:米、日本公開:1985年。刑事ものとしてのサスペンス的な展開を中心に、前近代の生活様式を守る人々との異文化交流も描かれたヒューマンドラマの傑作。第58回アカデミー賞作品賞、主演男優賞にノミネートされた。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=© 1985 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.







