2010年11月
『まさにスリルとサスペンス~北北西に進路を取れ(1959年)』
そんなバカな、と何度もつぶやく。奇想天外、あり得ない展開がスピーディーに続く。でもオモシロい。またもヒッチコックにやられてしまう。歴代大統領のモニュメントがあるラシュモア山を這って降りる追跡シーンなど、もはや笑うしかあるまい。
美男のケーリー・グラント する広告代理店の社長、ロジャーが、カプランなる人物に間違えられて連行される。カプランは情報部の架空の人物。なぜ。どうして。なぜなのだ。ナゾが膨らむ。ストーリーを生真面に追う映画ファンにはほんと疲れる。
ここからサスペンスの連続である。とくに広々とした農耕地で複葉機に襲われる有名なシーン。グラントがネクタイをばたつかせながら、走って逃げまくる。転んで、地面に伏せる。クローズアップされる必死の形相がこちらの緊張感を高める。そこまでやるか、ヒッチコック!
このサスペンスと疲労感は、ことしの日本シリーズと同じだった。ロッテと中日。史上最長となる延長15回引き分けの第6戦。最終第7戦もスリリングな延長戦となり、我が地元のロッテが逆転で日本一に就いた。
どうなるかわからない。奇跡に近いプレーが続出する。まるでサスペンス映画なのだ。ロッテ主将の西岡剛はさながらグラントか。やわらかい打撃と華麗な守備は、ハリウッドスターのカッコいい動きを連想させる。
マスクはともかく、ふたりの共通点は姿勢の良さである。背筋を伸ばし、立ち姿が良い。グラントの引き締まった上半身もさすがである。
敵か味方か。列車で出あうのが、金髪の美女イヴ役のエヴァ・マリー・セイント。それほどイロッポクはないけれど、なぜか気になるタイプである。グラントが言う。「生き延びたら、一緒の汽車で帰ろう」。セイントが聞く。「お誘い?」。グラント曰く。
「プロポーズさ」
ヒッチコック映画にはスリルだけでなく、微笑を誘うユーモアと気のきいたせりふもついている。
「北北西に進路を取れ」
製作国:米、日本公開:1959年。巨匠ヒッチコックによる、冒険活劇的なアクションミステリー。主人公が予期せぬトラブルに巻き込まれるというヒッチコック・サ
スペンスの王道であり、彼の映画特有のお約束に満ちた、集大成的な作品ともいえる。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://
asa10.eiga.com/)

写真=NORTH BY NORTHWEST © 1959 Loew's Incorporated. All Rights Reserved.
『スリルとウイット、せりふの妙味~裏窓(1955年)』
ヒッチコックだもの、ストーリーはスリリングに決まっている。限られた空間のドラマは、場面の一つひとつが緻密に計算されつくされている。とくに細部がうまい。左足を骨折したカメラマンのジェフに扮するジェームズ・スチュワートの額の汗粒、目の動きのアップが、見る者の心を妙に粟立たせる。
笑ったのが、スチュワートが細い棒で左足のギプスの中を掻くところだ。経験のある人ならわかるだろう。かゆくて、かゆくて。我慢する時の目、棒が届いた時の恍惚とした表情がとてもいい。
なんと言っても設定が絶妙である。要は殺人事件なのだが、ニューヨークの裏窓から見える暮らしはバラエティーに富んでいる。苦悩する作曲家やグラマーなバレーダンサーが住んでいる。いつもベランダで寝る夫婦も、ひとり寂しくディナーを食す女性もいる。
いつのまにか、観客はジェフの視線を通して、のぞき見気分に浸っていく。ある雷の鳴った夜、ジェフと一緒に中年セールスマンの不審な行動を目の当たりにする。包丁、トランク、深夜の外出。だれだってこいつが妻を殺したと思ってしまう。
さあ、どうなる。このドキドキ感は、プロ野球を見る時によく味わう。自分がベンチの監督になっているのだ。中でもID野球で鳴らした野村克也監督の野球が好きだった。
データを集めて分析し、それを試合に生かす。
映画のジェフ同様、野村監督の言葉もおもしろい。試合後のぼやきは味わい深いものがある。ジェフもテンポよくせりふを吐く。グレース・ケリー演じるリサとキスをしながら、「なぜ、男はアパートを3度も出て行ったのか」などと「なぜ」「なぜ」と繰り返す。こちらの不安も膨らむのだ。
ラストのオモシロさは、ヒッチコック映画の十八番だろう。それにしてもスチュワートの裸の上半身はちょっと情けない。対するケリーの上品な美貌と肉体は垂涎ものである。
「裏窓」
製作国:米、日本公開:1955年。ミステリー映画の重鎮ヒッチコック監督による、いわゆるワンセットドラマの傑作。「アメリカの良心」ジェームズ・スチュワートは安定感抜群、「ダイヤルMを回せ!」に続いて登場のグレース・ケリーは清楚な魅力に満ちあふれている。女優の扱いに定評のある同監督の面目躍如たるところだ。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=REAR WINDOW © 1954 Patron, Inc. Renewed 1982 Samuel Taylor & Patricia Hitchcock O'Connell, as Co-Trustees. All Rights Reserved.
『希望。そして挑戦魂~明日に向って撃て!(1970年)』
やはりこのオトコマエ・コンビは良い。強盗団のリーダーのお茶目なブッチを演じるポール・ニューマンと、その相棒サンダンス役のロバート・レッドフォード。希望という明日に向かってふたりで突き進む。
中学時代に初めて見た時は早撃ち名人のレッドフォードにあこがれたけれど、何度も見るうちにニューマンにすっかり魅了された。よくみるとニューマンの方が断然カッコいい。保安官に追い詰められて、崖から河に飛び降りる時、抵抗するレッドフォードが打ち明ける。「おれは泳げないのだ」と。ニューマンが白い歯を見せて豪快に笑う。愉快だ。
スポーツで名コンビといえば、バドミントンの美人ペア「オグシオ」だった。冷静な潮田玲子がニューマンなら、豪快なスマッシュを打ち込む小椋久美子がレッドフォードといったところか。性格も対照的ながら、試合での呼吸はピタリと合っていた。
北京五輪で取材した。ポイントをとった時のふたりの笑顔もいいけれど、窮地に追い込まれたときの必死の顔がまたたまらない。ミスをしても、互いに声を掛けて励ましあう。ニューマンとレッドフォードが逃亡するときと同様、ふたりの真剣な目には「希望」の光がみえる気がしたものだ。
40歳代の夫婦に感想を聞く。「懐かしかった。このコンビは外れない」とため息をつく夫。妻が言う。「ニューマンの愛きょうと、レッドフォードのクールさ。どちらも男性に求める要素だと思います。私もキャサリン・ロスみたいに自転車に乗せてもらいたい」と。
なるほどバート・バカラックの「雨にぬれても」の音楽をバックに、友人エッタ役のキャサリン・ロスがニューマンと「未来」と称する自転車に乗るシーンは印象的である。楽しく優雅。こちらも幸せな気分になる。
オグシオは試合を捨てない。ニューマンとレッドフォードも人生をあきらめない。映画の明るさと爽快感は、この一貫した挑戦魂からきている。
「明日に向って撃て!」
製作国:米、日本公開:1970年。反体制的な若者たちを描くアメリカン・ニューシネマの傑作として高い人気を誇る。実在した2人組の銀行強盗をモデルにしている。第42回アカデミー賞4部門、70年度英国アカデミーでは9部門を受賞。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)

写真=BUTCH CASSIDY AND THE SUNDANCE KID © 1969 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
『騙される快感~スティング(1974)』
何度見ても、痛快である。騙し騙されるシナリオは熟知している。でも、またもポール・ニューマン扮する大物ギャンブラーと、ロバート・レッドフォード演じる詐欺師の息のあったコンビに一杯食わされた。
列車のポーカーのシーンはハラハラする。イカサマの応酬となる。ロバート・ショウ扮する大親分が9のフォーカードを出すと、ニューマンがジョーカーのフォーカードを返す。お見事! 客席から拍手がわき起こった。
大掛かりなペテンの準備が軽快なラグタイム・ピアノの調べに乗って進む。超一流の殺し屋サリーノの正体にも驚く。もちろん有名なラストのどんでん返しもスカッとする。
この類の興奮といえば、「運命の日」のドラフト会議だろう。一番びっくりしたのが1985年のそれだった。甲子園のヒーローの桑田真澄と清原和博のPLコンビ。早大進学を表明した桑田が巨人に指名され、巨人に憧れていた清原は西武に入ることになる。
それぞれの顔が心に残る。会見の桑田は淡々とし、清原は目に涙をためていた。会場のテーブルの巨人・王貞治監督は満面の笑みだった。巨人に騙されたメディアは騒然となり、一般の人々は残酷なドラマに切なくなった。ただドラフトの後味は悪かったけれど、この映画の後味は愉快なのである。
結局、観客は騙され続ける。初観賞の33歳の男性は言った。
「完全にやられました。ずっとドキドキしていた。役者がカッコいい。とくにニューマンがシブいですねえ」と。
やはり年輪の差か。ニューマンの演技は脂が乗っている。右人差し指で鼻の横をなでる合図の仕草はよくマネをしたものだ。
二日酔いの演技もうまいと思う。苦しそうに顔を歪め、砕いた氷塊をぶちこんだ洗面台に頭を突っ込む。こちらの脳天までキーンとなった。
また地味ながらショウの騙されたときの表情もリアルである。目に怒りが走る。ドラフトのときの清原同様、騙された者の目がその深刻さを物語るのである。
「スティング」
製作国:米、日本公開:1974年。『明日に向って撃て!』の監督・出演トリオが再び集結した、ピカレスク映画の至宝。詐欺師たちによる復讐劇は予測不能の展開をみせる。アカデミー賞7部門を受賞。
(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)
写真=THE STING © 1973 Universal Pictures. All Rights Reserved.







