『上等な料理を目で味わう幸福~バベットの晩餐会(1989年)』
食欲の秋である。おいしいモノを食べると幸福になる。いや見るだけでもうれしくなる。個性派女優ステファーヌ・オードラン扮するバベットから饗宴を受けているような気分になった。とてもハッピー。
圧巻は、やっぱり晩餐会のシーンである。とびきり上等の食材をパリから取り寄せ、バベットが海亀スープやキャビア、ウズラ、トリュフなどを料理していく。燃え上がる炎、ジュ~と肉が焦げる音、煮立つ鍋の音がこちらの食欲をさらにそそる。
赤ワインのテイスティングをする際のバベットの真剣な眼差しもいい。包丁さばきは美しい。スポーツでいえば、バレーボールの"世界一小さな大セッター"、竹下佳江のトスさばきをみるかのようである。
時に大きく、時に素早く、ボールを動かす。多彩な移動攻撃を演出し、竹下は名シェフのごとく、ゲームを料理する。相手ブロックを翻弄する。いろんな味付けで、観客を魅了するのだ。竹下もバベットも、自分の仕事を終えると、顔に深い充足感を浮かべる。その抑制を利かせた微笑がたまらなくいい。
「映画言語の極みです」と、映画通の51歳の男性は鼻下に汗の粒を浮かべた。「含蓄ある言葉はもちろん、迫力ある調理場面、美しい映像、上質の音楽......。視覚面が絶品です。若かった公開時より今回の二度目のほうがぐっときました」
なるほど、見る側の人生経験もある程度、必要なのだろう。晩餐会のゲストたちがご馳走を食するうちに幸せそうな顔に変わっていく。口げんかしていた人々が互いに談笑するようになる。ほとんど死にそうだったバアさんの顔に生気がよみがえる。
「名シェフは食事を恋愛に変えることができる」と将軍(ヤール・キューレ)が呟く。未婚を通す年老いた姉妹の優雅なしぐさも心を和ませる。静かな展開ながら、ペーソスと美しさに包まれた完成度の高い作品である。
「バベットの晩餐会」
製作国:デンマーク、日本公開:1989年。漁村風景や晩餐の様子などを淡々と素朴に描写する中で、人生の幸福をさりげなく描く手法が高い評価を得て、アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した。他にも1989年の英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)最優秀外国語映画賞をはじめ、世界各国の映画賞で作品・監督・主演女優の賞を獲得。(「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」解説より。公式HP:http://asa10.eiga.com/)
写真=BABETTE'S FEAST © 1987 A-S Panorama Film International. All Rights Reserved.








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