立ち読み週刊朝日

「愛欲生活15年」の全真相(下)

オウム平田・斎藤容疑者、布団1組・鍋1個

週刊朝日2012年01月27日号配信

昨年大晦日に出頭したオウム元幹部の平田信容疑者(46)と一緒に、17年も逃亡生活を続けた元オウム信者の斎藤明美容疑者(49)が1月10日、警視庁に出頭し、犯人蔵匿の容疑で逮捕された。職場で「マドンナ」と称された彼女は、かたくななまでに異性を拒んでいたという。2人の「秘められた暮らし」の軌跡を追った。


◆借りたDVDは7本で700円◆

 マンションにあった布団は1組だけだった。明美容疑者と平田容疑者は寄り添うように3枚の毛布にくるまって寝ていたという。万が一警察に見つかったときも「ひとり暮らしだった」と抗弁するためだったのか、それとも、2人の秘められた暮らしは、尊敬から愛へと発展したのか。

 2人と面会した滝本弁護士はこう話す。

「籍にこそ入っていないが、2人は長年、連れ添った完璧(かんぺき)な夫婦関係です」

 秘められた暮らしの終焉(しゅうえん)に向け、明美容疑者の準備が本格化したのは、昨年の初冬ごろだったようだ。

 明美容疑者は昨年11月22日になって初めて、偽名の健康保険証を使って近くのレンタルDVD店に入会した。店の関係者が語る。

「ウチは旧作が7本で700円とお得なんで、彼女は12月17日の返却日までに4回で計28本のDVDを借りていたそうです」

 借りたDVDのタイトルは左上の表のとおり。明美容疑者は滝本弁護士にこう語った。

「11月に平田から『出頭したい』と打ち明けられ、以前から見たがった映画のDVDを見納めにしようと2人で話し合い、借りに行きました。DVD店の会員証は出頭前に捨てました」

 平田容疑者が出頭する直前、明美容疑者が「途中で逮捕されないように」と、平田容疑者のトレードマークの眉毛をそり、髪を茶髪に染めて変装をさせた。そして、見送った。

 別れの後は、自分の出頭が控えている。正月明けの1月4日、整骨院の院長に、
「実家で親の看病をするので辞めたい」
 と電話を入れた。室内にあった冷蔵庫の食品を処分するなど片づけ、荷造りを始めた。

「当初は平田の出頭の騒ぎのほとぼりがさめるまでウイークリーマンションに身を隠し、報道が落ち着いたら、出頭しようと思っていた」(明美容疑者の供述)

 ところが、1月7日に平田容疑者から明美容疑者の存在を聞いた滝本弁護士から携帯電話に連絡があり、9日夕に東大阪市の自宅マンションで会った。

 部屋にあった食材や食器などの荷物を段ボール2個に、平田容疑者の衣服類などは中型のスーツケースにまとめて、滝本弁護士の訪問を待った。

 律義な性格なのだろう。

 部屋を出る前に、「大家さんに迷惑をかけたくない」と窓や床をふこうとした。だが、滝本弁護士に慌てて「平田容疑者の指紋をふきとると証拠隠滅になるのでやめてほしい」と制止され、やめた。

 そして、一つのカバンを滝本弁護士に預けて、こう言った。

「被害者のご家族に渡してほしい」

 中身はジャスト800万円だった。

 原資は95年に教団の元女性幹部から渡された1千万円の逃走資金だが、大阪に来てから明美容疑者が稼いだカネをコツコツと足していったものだという。

 出頭する直前、明美容疑者は滝本弁護士の携帯電話を借り、故郷の両親が住む自宅へ電話。逃亡後はじめての連絡だったが、未明のせいか誰も出ず、留守電にメッセージを吹き込んだ。

 「長い間、ご迷惑をかけ、すいません。これから出頭します。みてください」

◆教団が強める「麻原回帰」◆

 警視庁が明美容疑者から任意提出を受けたのは現金800万円と現金数万円が入った預金通帳、健康保険証、携帯電話2個(一つは不使用)など615点だ。

 現在、原宿署に留置されている明美容疑者は、
「夜、よく眠れない。外に出られない生活が、こんなにつらいとは考えもしなかった」
 と訴え、東大阪での生活を懐かしみ、こう語ったという。

「整骨院のみなさん方に親切にしていただいたのに、こんなに迷惑をおかけして、本当に申し訳ない」

 今後の捜査の焦点はどこか。一つは、平田容疑者は接見した弁護士とキリスト教や仏教について熱心に議論することもあるといい、本当に信仰を捨てたのか、だ。さらに、2人の逃亡生活に教団関係者が関与した可能性も考えられる。

 公安調査庁の分析リポートによると、旧オウムの主流派(アレフ)は最近、「麻原回帰」路線を加速させ、死刑廃止を訴える過激派団体に接触するなど迷走しているという。

「主流派は昨年3月、麻原の"生誕祭"を開催し、信徒に対し、麻原の延命を祈願する瞑想(めいそう)や麻原を絶対視する歌の合唱などを行わせた。また、麻原の偉大さを称賛するDVDを作製し、集中セミナーで信徒に視聴させるなど、より過激化している」(同庁関係者)

 また、教団は足立区内に1億円を超える不動産物件を修行施設として取得。

 そして年間300人の信者獲得を目標にかかげ、教団名を隠し、インターネットを利用し、ヨガ、占い、宗教、精神世界に興味を持つ者に限定したメッセージを配信し、返信してきた者を誘い出すなどの手法で勧誘に躍起だが、最近は「仕事がなく、500円のお布施もできない」と訴え、脱退する信者が続出しているという。

 警視庁公安部捜査員はこう言う。

「2人は麻原に幻滅し、逃走は教団とは一切、かかわりがないと供述している。だが、出頭のタイミングが麻原の死刑が執行されそうな時期だったうえ、教団の経済状況が悪く、支援が受けにくい状況なのが気にかかる。明美容疑者が提出した現金800万円の紙幣、615点の押収物から教団関係者の指紋が出ないか、徹底的に鑑定をしている」

 今後、2人から何が語られるのか。注目したい。 (本誌・藤田知也、森下香枝)

 
■2人が出頭前に見たDVD28本のタイトル■

<11月22日(火)>
「24-TWENTY FOUR-ファイナル・シーズン」1~7巻

<11月26日(土)>
「24-TWENTY FOUR-ファイナル・シーズン」8~12巻
「ハリー・ポッターと死の秘宝」
「プリズン・ブレイク ファイナル・ブレイク」

<12月3日(土)>
「LOST ファイナル・シーズン」1~7巻

<12月10日(土)>
「LOST ファイナル・シーズン」8~9巻
「RED」
「秒速5センチメートル」
「最後の忠臣蔵」
「桜田門外ノ変」
「告白」